やんち

以前、国内で盛り上がる「ハロウィン」について取り上げたことがあったが、私がこうした傾向にあまり納得できない理由の一つに我が国の伝統文化に対する軽視というものがあげられる。例えば、数日後に控えている「勤労感謝の日」。今では祭日の一つとして、単なる休日くらいにしか思われていないのかもしれないが、もともとは「新嘗祭（にいなめさい・しんじょうさい）」と呼ばれ、神道祭祀が行われる日であったことをご存知だろうか。

　これは読んで字の如く「新＝新しい」「嘗（な）める＝味見する・試してみる」「祭＝儀式」ということで、『その年に収穫された新穀を食す儀式』を意味する。言い換えれば、「恵み豊かな一年の収穫に感謝をして当日までに迎えられた新穀を食す、いわゆる新穀解禁日」ということになるのだ。

　実際、天皇陛下もこの新嘗祭を迎えてから新穀をお召し上がりになると言うし、巷の神社各社でも今なお「新嘗祭」を執り行っている神社も決して少なくはない。ただし、実際には先にも上げたとおり、この「新嘗祭」そのものがあまり知られていないため、私も過去数年にわたって、自分の主宰する「神社人」の企画で、神社の「新嘗祭」に参加し、その後、新米をいただくという企画をやってきたが、実際の祭祀で目にする一般参加者はごくごくわずかである。

　これはやはり戦後教育の中において、戦前の価値観がかなりの割合で否定されてしまった影響もあるだろう。少なくとも現在の初等教育において、こうした祝祭日の意味や伝統文化・風習の意味を学ぶ機会は決して多いとは言えない。しかし、この「新嘗祭」は、数ある神道祭祀の中でもとりわけ重要視される祭祀で、天皇が最初に即位した年に迎えられる「新嘗祭」が、「大嘗祭（おおにえのまつり・だいじょうさい）」と呼ばれ、一世一度にしか執り行われない最も重要な神事と言われていることを思えば、この「新嘗祭」が国家的行事という点からもどれだけ特別な意味を放っているのかということはおおよそのご想像はいただけるだろう。

　しかし、多くの国民はそうした事実を知ることもなく、同じ五穀豊穣を祝うでも、「ハロウィン」のような外来イベントに高い関心を示してしまう。現代社会では神社もいわゆる「宗教」の類に認知されていると思えば、致し方ない部分もあるかもしれないが、あまりに知らなすぎるのもどうだろうと思う自分もいる。そろそろ解禁日を迎えるボージョレー・ヌーヴォにしても、解禁報道で沸き立つ国内世論に対し、世界では逆に日本酒に対する関心を高めており、昨年の酒類輸出額は、国税庁酒税課の報道によると、10年前と比較してもおよそ2.3倍にまで膨れ上がっているという。

　ある意味、文化の「ねじれ現象」と言えるところもあるのかもしれないが、少なくとも、2020年の東京オリンピックは世界からの注目がより一層高まるだけに、こうした風潮には少しばかりの不安を覚えている。

　そう言えば、私がこの新嘗祭の企画でお世話になっている東京は渋谷区の金王八幡宮では、ウィルチコ・フローリアンさんというオーストリア人の神職がお仕えしている。ピンと伸びた背筋に、凛とした出で立ちは、実際その辺の日本人よりもずっと日本人然としている。果たして、彼の目に映る日本人はどのように映るのだろうか。

「勤労感謝の日」をどのように過ごすかは当然のことながら各々自由ではあるが、少なくともその意味合いとしては、自らに対する慰労ではなく、世の中に感謝を感じられる一日であって欲しいと願わんばかりである。

著者プロフィール

一般社会法人国際教養振興協会代表理事/神社ライター

東條英利

日本人の教養力の向上と国際教養人の創出をビジョンに掲げ、を設立。「教養」に関するメディアの構築や教育事業、国際交流事業を行う。著書に『日本人の証明』『神社ツーリズム』がある。

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